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今まではタライ低地に肥沃な土地があり、雇用の機会があっても、人々はマラリアが理由で集まってこなかったのです。従って、マラリア撲滅によって都市化がタライに起こっています。小さい町が生まれ、中規模の町もどんどん生まれています。タライ地域に雇用の機会が創出されており、分野別に見ると、サービス産業などが急速に発展しています。こういったことがタライ低地への人々の動きを誘導し人々は、山岳・丘陵地帯から低地へと流れてきています。
出生地別統計を見てみますと、非常に面白い変化が起きています。詳しく、いつ移動してきたかということはわかりませんが、山岳・丘陵地帯で生まれた人たちが、タライ低地へ移動してきているという現象は否定できません。これは非常に重要な点だと思います。
表の1・2・3に、山岳・丘陵地域からタライヘ人口移動の規模が数字としてあがっています。
一般的に言って、マラリアさえなければ、山岳・丘陵地域にいつまでも住み続けるよりも、平地に住んだほうが住みやすいと言えます。山岳・丘陵地域は気候的にも厳しく、生活も厳しい地域で、そこから、より暮らしやすい平地に移動するのは、ごく当然のことと言えます。そして、タライ地域へ移るとこんなに暮らしやすかったのかということがわかれば、そこにどんどん人が移るのはごく当然なことだと思います。
こうしたことが今、ネパールで起きているわけです。
このような都市化の傾向というのは、ある意味ではプラスの傾向として見ることができます。いずれにしても、このような傾向を政策的にどう取り上げるべきかを考えていく必要があります。この問題に関して、私見を申し上げたいと思います。
特に移動という観点から申しますと、ネパールにおける都市化を特徴づけるのは、分散的な都市化であると私は思います。ネパールの場合、首都であるカトマンズだけに人が集中しているわけでありません。確かにカトマンズの人口は、急速に増えてはおりますが、全体の中に占めるカトマンズの人口の比率は、この20年から25年の間でせいぜい2%程度の増加なのです。それだけではありません。カトマンズの入口がネパール国の都市人口に占める割合、これも20%程度に過ぎません。今は、しかもその比率というのは下がっています。ということは、少なくとも現状を見る限り、数字的にはカトマンズがいわゆる首位都市になっているということは言えません。
たとえば、タイのバンコクなどは典型的な首位都市ですが、このような都市化がカトマンズでは起きていないのです。なぜ、そうなのかということを考えることは重要でありますし、また、それは社会学者のみならず、政策立案者にとっても大きな示唆を含んだものと言えます。
カトマンズが、首位都市になる可能性があるのか、それとも、ネパールでは今後もこの分散的な都市化のパターンでいくのかということを考えるうえで、専門家の意見

 

 

 

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